2018-02-03 15:07:39
テーマ:例会記録

「冬の高田馬場には魔物が棲んでいる」
これは太古の昔より語り継がれている都市伝説であるが、そんなものはただの作り話だって思い込んでいた。
この惨劇を目の当たりにするまでは・・・

2018年2月3日 ストーリテリングTMCインハウススピーチコンテスト

いや、コンテストだなんて生ぬるいもんじゃない。お互いのメンツをかけた抗争だ。
なにせ勝者は言わずと知れたスピーチの聖地エリア15まで勢力を拡大できるのだから。本気になるのも無理はない。

出場者はメグ、ミシェル、キャシーの三人。
群雄割拠のストテリTMCの中でも、特に凶暴として恐れられている猛者達だ。
まさかこの三人が激突するなんて。生粋のファンにとっては夢物語のようなシチュエーションだ。
この三つ巴の全面抗争を一目見ようと、会場には続々と観客が押し寄せてくる。

夢、希望、怒り、悲しみ、重圧、愛情・・・
様々な思いが交錯しながらも会場の熱気と期待感がピークに達した時、いよいよ戦いの火蓋は切られた。

最初のスピーカーは前回王者のメグ。
表面上は穏やかな様相を呈しているものの、その心の奥底にはゆらゆらと蝋燭の炎のように揺らめき立つ闘争心が垣間見える。これが王者の貫禄というものだろうか。
序盤はじっくりとした展開が続くも、随所に言葉巧みな飛び道具で畳み掛ける。そしてラストは強烈なメッセージを主張して締めくくる。
その圧巻の戦いぶりに、聴衆はグイグイと引き込まれ虜となる。もはや言葉も出ない。

二番目のスピーカーはいぶし銀のミシェル。
満を持して、子供への愛情をテーマにしたストロングスタイルで勝負してきた。
ストロングスタイルの定義はいつの時代もあいまいであるが、ミシェルのスピーチは時代に左右されない根源的なファクターで成り立っていた。
細かなボディランゲージでペースを掴みつつ、ここぞという局面ではそのブレない信念をあらわにして聴衆を魅了する。
ベーシックを突き詰めたその様はどこまでも美しく、聴衆の心の中でいつまでも色褪せず輝き続けるであろう。

最後のスピーカーは現在破竹の勢いを見せているキャシー。
序盤から過激なボーカルバラエティで聴衆を極限状態に追い込んでいく。その怒涛の猛攻に、悶絶する聴衆も現れる。
まずい、このまま続けるのは危険だ!コンテスト委員長として止めに入ろうとしたその時、キャシーは私の目を睨んだ。
「大丈夫、私が責任をとるから・・・」
そう訴えかけるキャシーの目の奥に尋常でない覚悟を感じ、その迫力に狼狽して立ちすくむ私。
キャシーのスピーチが終わった時、場内からは悲鳴にも近い声援が飛ぶ。その時私の心には、完膚なきまでに打ちのめされた時にのみ感じることのできる心地よい敗北感だけが漂っていた。

三者三様。お互いの個性と信念がぶつかり合い、そのイデオロギー闘争はもはやスピーチという概念を超越して芸術の域に達していた。
未だかつて、ここまで密度の濃い戦いがあったであろうか。
いま目の前で起こったことは幻じゃないんだ。私は何度もそう自分に言い聞かせる。

そして結果は・・・
1位 キャシー
2位 ミシェル
3位 メグ

ストテリTMCの、いや、日本のスピーチ界の勢力図が塗り替えられた瞬間であった。
思わず三人は泣き出しそうな表情になりながらも、熱い抱擁を交わす。
満身創痍の肉体を重ね合わせたその時、三人の心も一つに重なったように見えた。

こうして、冬の高田馬場に棲む魔物は、大きなサプライズと新たなるスピーチの可能性を我々に示して消えていった。
いや、本当に魔物が棲んでいるのは高田馬場なんかではなく、あなたの心の中なのかもしれない。
その魔物が本性を現した時、あなたにとっての新たなる時代が幕を開けることになるであろう。

End



コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。

このサイトはスパムを低減するために Akismet を使っています。コメントデータの処理方法の詳細はこちらをご覧ください

コメントフィード

トラックバックURL: https://storytelling-tmc.org/%e7%ac%ac106%e5%9b%9e%e4%be%8b%e4%bc%9a%e3%81%ae%e5%a0%b1%e5%91%8a/trackback/